今日は、東北大学での「グリーン復興」会議で非常に充実した議論ができた。結果から言うと、「グリーン復興の知恵」をコンテンツ化する計画を今年度から着手することになった。この会議体で発表され共有された多くの事例に対して有志による取材チームを構成し編集していく。
東北の明日、日本の将来、そしてアジア諸国の災害に苦しむ地域の将来に、少しでも役立つツールを目指してみようと、来年以降の集まる機会も、取材&編集作業の進捗に合わせて2回の予定となった。その議論の経緯と詳細を以下に記してみる。
東北大学の「海と田んぼからのグリーン復興(通称:うみたん)」会議。2011年4月に立ち上がったこの会議も今回で22回目の開催。来年の3月で5年の節目を迎えるにあたって、今日は「グリーン復興」とは何なのか?をこれまで会議で共有した78団体、54活動事例を振り返り、2020年のオリンピックパラリンピックや、2021年の10年の節目に何が出来ているのか考えることにもなった。
これまで取り組んできた内容は、エコツーリズム、海浜植生の回復、第一次産業の新たな一歩、巨大防潮堤、コミュニティ再生、自治運営そのものまで、全て現場でのアクションであり、地域住民が主役であり、それをどのように関わって、地域の自然を大切にした町づくりを進めることができるのかを考えるプロジェクトと言える。
プロジェクトのリーダーである中静透東北大学教授は、これまでの5年を振り返り何らかのカタチで残し、今後を展望できたらと考えており、今日は代表的な事例の「東北沿岸部の海浜植生の再生」「浦戸グリーン復興プロジェクト」の発表と今後のプロジェクトを議論する進行案を組んだ。
後半の議論から記すと、事務局の岩渕翼くんからこれまでの参加団体と事例を紹介し、今後をどのように考えていくのかの口火を切ってもらって、中静さんから今後を考やすくするため論点を整理していただいた。
中静さんの冒頭、初心に戻るために振り返った2011年5月22日に環境省のイベントで行った
「グリーン復興宣言」は懐かしくさえ感じるものだったが、「主な活動目標」を良く読むと現在を見抜いたかのような記述が眼に飛び込んできた。
抜粋すると、
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1.生態系の機能を活用した災害のリスクを和らげる土地利用
■沿岸の水田復元、湿地の力で農地の地力を回復。復元が難しいところは、新たな自然再生の場(干潟、海岸湿地)としての利用。
■オフセット、税制優遇制度(保全地役権等)、保険など災害を緩和する土地利用に関する資金メカニズム。
2.流域全体の生態系からの恵みを低下させない防災・造成の配慮
■海の自然の保全と良質な水源確保のため、適切な森林管理や土砂流出の少ない土地開発。
■海の生物資源や、生物の移動に配慮した建造物(鉄道・道路)を作る。浸水の流れを緩和し自然と調和する建造物の工夫。
3.生態系とその回復力を活かした、持続可能な営みの創造
■地域の農林水産業、観光、教育計画を構想する際、地元文化と生態系の回復力を取り入れて営みを考え共有し合意形成を図る。生態系からもたらされる景観や、郷土の持つ文化的な価値を積極的に高める。
■バイオマスエネルギー、小水力など、小規模な自然エネルギーを利用し、集落のエネルギー自律性を高める。
■東北の豊かな食文化・地域資源を通して、復興と生物多様性の両方を支える他地域からの長期購買予約や投資などの、安定的な資金メカニズムをつくる。
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まるで、南三陸で町民の皆さんや町役場の皆さんと共有して進めている活動のテキストのようで、被災直後の視察をした中静透教授、河田雅圭教授、占部城太郎教授は、これらの事をこの段階で文字にしていたことの驚き。少し冷静に考えれば極めて基本的な事なのかも知れないが、まさに慧眼。ちなみに僕は、写真家として町を俯瞰して視点を深めて安定させて絞り込み、皆さんとの交流を深めながら考えを整理して、ようやくこの内容に追いついて進めている状態。
中静さんの話しを続けると、このプロジェクトの特徴的な成果として、
モニタリングの
東北地方太平洋沿岸地域自然環境調査しおかぜ自然環境ログ企業連携の
東北グリーン復興事業者パートナーシップ などの展開も意義深い成果とした上で、これまでの復興の方向性と状況、各事例の進展、プロジェクトの役割、実際の活動に対する助言、行政などに対する発信、情報交換を行ってきた実態から5年間の総括を行い、今後の活動のあり方について整理。
1、発信の方法と形態
2、今後の活動のあり方
3、資金
ここから僕が議論を進行し、参加者から本当に活発に意見を出してもらった。それをボードに書き留めながら、議論を整え方向性を探りつつ、感じつつある出口に向けて議論を流し込んでいったのだが、「発信の方法と形態」について丁寧に時間を割いた。というのも、もしかしたらこのプロセスがプロジェクトの軸になるのではないかと議論をしながら感じたからである。一般に、「グリーン復興」という言葉は馴染みにくいので「町づくり」といったほうが受け入れられるという言葉の問題から、媒体社と連載など企画連携して成果物を作る、学術的な報告書形式にする、一般に向けたビジュアル書籍にするなどの形態のイメージや、読み手は何を期待してこのどのように活かすものを作りたいのかというアウトカム(具体的な成果)をイメージすることまで、多様な議論ができた。その結果、
1、出版物として残す
2、このプロジェクトで共有された事例を活用する
という前提のもと、
ターゲットは、
1、東北で今もこれからも活動に取り組む人
2、来たるべき災害へ備えて活動している人
3、沿岸部に限らない社会課題を抱えた地域の人
4、海外の被災地などで活動する人
形態は、
1、自治体職員や研究者向けのようなドキュメント
2、一般に読みやすい内容に加工した書籍
の2方向が浮かんできたところで、上田壮一さんから参考事例を踏まえた発言あった。
1、
震災イツモノート 2、
タイムラインマッピングプロジェクトその結果、「グリーン復興の知恵」をこの2つの手法を参考にコンテンツ化するという実像が見え、問いかけるメッセージも以下のように整理できた。
1、地域の自然を防災・減災に活かしませんか?
2、地域の自然を活かした復興をしませんか?
そして、「グリーン復興」のロールモデルを「南三陸町FSC、ASC認証を活かした町づくり」と「浦戸グリーン復興プロジェクト」とし、それぞれ取材しながらコンテンツの中身を具体化する。
資金に関しては、基本は東北大学で調整するが、事務局をサポートするCEPAジャパンなど参加団体も協力することとし、ロールモデルは今年度の事業として着手。来年度に78団体、54事例の中から取材に応じてもらえる事例は基本的にすべて実施する計画とした。
早速、取材チームを構成、今井麻希子さんをリーダーに、上田壮一さん、服部徹さん、岩渕翼くん、岸上祐子さん、僕が、中静先生達と連携を図って動く。
そして、来年の活動そのものは、この事業を軸にして役割に応じた会議の開催という方向が浮かんできた。
2016年前半 活動報告の共有+出版物の目次作りを目的としたワークショップ
2016年後半 出版物のお披露目会
また来年9月にハワイで開催される国際自然保護連合の世界自然保護会議と、12月にメキシコで開催される生物多様性条約締約国会議を見据える。
以上の内容を参加者の承認を得て議論を終えた。
他に、今井麻希子さんからは国連防災会議で採択された「仙台行動枠組」の中で、グリーン復興を実体化させるべくという呼びかけもあり、「生物多様性」「生態系」「気候変動への適応」の3つのキーワードの入った文章を引用元として、コラムの付記をしてもらえるよう検討してもらうことになった。
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仙台行動枠組
I. 前文
兵庫行動枠組:教訓、確認されたギャップ、今後の課題
5. 人、コミュニティ、国家、その暮らし、健康、文化遺産、社会経済的資産、そして「生態系」をより効果的に守るために、災害リスクを予測し、そのために計画を立て、そして削減すること、それによってそれぞれの強靭性を高めることが、緊急かつ重要である
VI. 国際協力とグローバルパートナーシップ
一般的考慮事項
実施方法
(d) 貧困削減、持続可能な開発、天然資源管理、環境、都市開発及び「気候変動への適応」に関連した、各セクター内やセクター横断的な多国間及び二国間の開発援助プログラムに、適宜、災害リスク削減の各取組を統合する。
優先行動2:災害リスク管理のための災害リスク・ガバナンスの強化
世界レベル及び地域レベル
28. この達成のために重要な行動は以下のとおりである:気候変動、「生物多様性」、持続可能な開発、貧困撲滅、環境、農業、保健、食料栄養など、災害リスク削減に関係する施策の実施と調和のため、地球規模・地域的な仕組みや機関の協働を促進する
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また、残念ながら療養で欠席となった北海道の鈴木玲さんの
「北の里浜 花のかけはしネットワーク」としての岩手から宮城の各地沿岸部の海岸植生の精力的な再生活動「地域を超えた恊働による海浜植物の一時的避難と再導入」について。
名取市閖上の大橋信彦さんと僕とで報告し、特に今後の活動で巨大防潮堤の上にその地で採集した種子を入れた土嚢を設置し穏やかな連続性を生み出す計画は、今後の彼の活動の重要性と必要性を大いに感じるもので、多くの協賛企業を得られたらと切に願い、こちらの活動もサポートできたらと考えている。