5月2日、今日から南三陸を出て、車中泊の撮影旅に出る。
まず、雄勝に向けて走り出し、途中、石巻で味わい深い佇まいを撮影。雄勝では、雄勝硯協同組合の高橋さんにいろいろ教えてもらった。
硯としては仏教の布教と共に必要となった硯石をこの地で見出し産地となって約600年。明治に入って洋風建築に必要なスレートに、この石が合うということになり普及。東京駅に使用されたのは有名。しかし採石量はそんなに多くなく、津波に呑まれた素材を拾い集めて磨いて販売している。とても思いを感じる商品。自宅用に購入する。
雄勝硯協同組合の高橋さん達
さて、松韻シリーズである。
今回は牡鹿半島の海水浴場を訪ねることにし、まず最初に向かったのは雄勝の荒波海水浴場。ここは砂浜のど真ん中に雄勝特有の大きな岩が鎮座している。いつまでもこの風景が守られて欲しいと願う。
荒浜
女川方面に向かっていたが日没のため、指ガ浜の仮設住宅跡地で車中泊。21時にはダウン。
5月3日、4時起床。
あまりにも寒いのでダウン着用。女川駅に向かい駆け足観光した後、地名が素敵な夏浜海水浴場に到着。小さい砂浜だがとてもきれいで静かな場所。歩いてビックリ鳴き砂だった。
夏浜の出会い
ここで、石巻から釣りエサにするいさだを採りに来た老人と話し込む。この辺りでの釣り道具屋で3,000円ぐらいで当たり前に売っている「いさだ網」を器用に扱って短時間でバケツ2杯分。それを砂にまぶして持ち帰るという。撮影もさせてもらったが、あえて名前も連絡先も聞かずに別れた。旅の良い思い出にしたかった。
続いて女川原発の隣にある小屋取海水浴場で撮影。原発の有刺鉄線の前に津波に洗われ立ち枯れた一本の松がある。これを撮影していたら、予想通り警備員がやってきた。聞かれることはわかっていたので、東北の海岸線で津波の記憶を刻んだ松を撮っていると伝えた。
女川原発の敷地と砂浜
次の撮影地に急ごうと思ったら、五部浦湾の野乃浜に立ち枯れた松が何本も佇んでいる。これは1時間コースだと思って粘る。手応えは感じる。少し調子が出てきたように思い次に急ぐ。
野乃浜にて
十八成浜。海水浴場らしい典型的な松が数本残って元気に立っている。その海側には巨大防潮堤の建設が進む。その中で1本、とても立ち姿が美しい松があり、その印象のままに撮影。去りがたい場所。
十八成浜の防潮堤工事
夕暮れとなり、御番所山の展望台に。初めて金華山を望んだ。草地の斜面にいい感じで佇む松を撮影。頭上では松韻がそよぐ。ここからの夕暮れが良くて日没まで撮影したので、ここで車中泊とする。月夜の外はダウンが必須の気温だが寝袋は暖かく快適。
御番所山からの眺め
5月4日、3日目の朝、明るいので目が覚めたら6時半。寝坊である。地図アプリでチェックした海水浴場を訪ねる行程。昨日は、朝の老人とののんびりした時間を過ごしたことで心にゆとりができ、充実した松韻撮影ができたので朝からスイッチが入っている感じがする。
石巻市の谷川浜は、平地は何もなくなってしまった風景が広がるが法面が広い防潮堤が姿を現していた。大谷川浜は小さな集落のエリアで防潮堤はない。いずれも撮影対象がなく先を急ぐ。
完成間近な防潮堤
前日に撮影した野乃浜。意外と広く反対の端には女川第六小学校と第四中学校の跡地があった。記念碑を見ると小学校は明治6年開校とある。閉校は2010年で136年の歴史を刻んでいた。地方も都会も豊かさは関係なかった証しではないかと感じる。浜では打ち上げられた松が海に向かって立ち上がっている。その後ろ姿に思いを込めた。
隣の大石原浜でも打ち上げられた松、崩れた崖から抜け落ちた松、立ち枯れた松。いずれもその印象をより強くできるよう撮影した。
女川第六小学校前の浜
ちょうどお昼前に女川駅周辺に入ってしまって少しの距離だが渋滞にはまった。この連休で初めての渋滞。すぐに抜けて御前浜海水浴場に向かう。ここでは良い被写体がなくお昼ご飯を食べて沖を眺めていたら、少し先に気になる入り江が見えた。
正確な地名はわからず、地図アプリで最も接近するあたりに車を止め道を探すが道はなく、杉林や竹やぶを縫うように人が歩いた跡を辿って降りていくと、誰にも使われなくなった空間が広がり、5月の日差しに立ち枯れた木々や打ち上げられた木々が眩しい浜だった。
立ち枯れた木は広葉樹だったが多数打ち上げられたものには松が多く、この地でも聞こえたであろう松韻に思いを馳せ、じっくりと被写体と向き合いシャッターを切った。
地名のない入り江
ここから一気にくりこま高原駅に向かおうとしたら、波板海水浴場とある。立ち寄らないわけにはいかない。松韻風景を感じる被写体はなかったが、小さな砂浜の全体を歩いてみた。丘には津波でさらわれハワイのオアフ島に流れ着いた第2勝丸が奇跡の生還と看板が立てられ置かれていた。
これで今回の車中泊での撮影は終了。
天候の加減で幸いなことに、日々ヤマザクラの花のつき方が変わっていった。もう散り際かなと思ったら咲き始めでみるみる満開を迎えていった。牡鹿半島の道では、カーブを曲がるたびに多様なヤマザクラが立ち現れ、ハンドルを切るのが楽しく気分が高揚する運転だった。
カーブを曲がるたびに声をあげていた
今回は、地図アプリで海水浴場を探し航空写真で松韻写真が撮れそうか目星を付けて走ってみた。たとえ良い被写体がなくても、夏の賑わいを想像する楽しい空間に出会う旅ともなった。
日が沈めば車中泊の準備を始め、その日1日の撮影成果を整理する。そうするうちにうとうとして眠ってしまう。日の出前後に目が覚めてまた走り出す。天候にも恵まれた自分の表現を探し求める旅。
数カ所では防潮堤の建設が進む一方、海抜の低い道路から穏やかに海を望める場所もまだ残る。自分が撮影した写真には、これから意味が付いていくことになる。
考えられないぐらいのボリュームの仕事や活動や学生生活などで睡眠時間を削って生きているが、少しでもこんな時間が過ごせて幸せだ。
時間は自分で作るもの。もちろん理解者あっての実行。また旅に出よう。
こんな風景に出会えるから旅はやめられない