芦屋霊園からの眺め
震災から10年後の秋に出版した、写真集「一年後の桜」の作品を抜粋して写真家のウェブサイトにアップしました。写真集に記載したエッセイも少し追記しました。この写真集の出版が、僕の心の復興の証です。お時間のある時に是非ご覧くださいね。お気に召したら写真集も買ってもらえたら嬉しいです。
この出版からも既に10年が経ちました。僕自身、タンスの下敷きになったために、被災者として思い悩むばかりで、人の役に立つことを全く考える余裕がありませんでした。
東北も5年の節目。被害の大きさが比べものになりませんが、一人ひとりの心の復興はもしかしたら近い歩みがあるのかもしれないと思って、これからも自分の体験を活かして世のため人のためになれるなら、南三陸町を始め、ご縁のできた人の元へ、足を運びたいと思っています。
今年だから言えるような気がします。311の直後、被災地に足を向けることができませんでした。それは自分の震災体験がマイナスに作用したからでした。外から来る人への恐怖心からです。ご家族が亡くなって遺体安置所に何とか運んで自宅に戻ったら、貴金属が全てなかったという信じがたい火事場泥棒の話や、僕の実家の庭を見知らぬ人がウロチョロ歩き回っているので「何をしているのですか?」と家から出て声を上げると、蜘蛛の子を散らすように走り去るという、自分の目でも考えられない光景を見て、祖父祖母を始めとする家族を守ることを第一に考えて行動していました。そんなことがほんの一部の心無い人の行動だと思えるようになるのにずいぶんと時間がかかりました。まさに非常事態だったように思います。
東北沿岸部で被災した方々が、支援者に対してどう考えるのだろうと思い悩んでしまって足を向けられない代わりに、東京でレスキュー組織の広報サポートをしたり、東北大学の「グリーン復興プロジェクト」の運営サポートをし始めました。いま、結果的に思うことは、「自分のスキルを活かして世のため人のためになる」ことであれば、支援の形は多様だし、時期は問われないし、くよくよ考えることではなかったということです。
しかし、これは僕が一人で乗り越えたのではなくて、南三陸町の佐藤太一くんとの出会いがとっても大きかった。彼との出会いは僕の中では革新でした。人から求められる喜びを教えてくれました。
with 佐藤太一くん
そして鈴木卓也さん、小野寺邦夫さんという友も得ました。TEDxTohoku2013で同じスピーカーとして登壇した山内明美さんや吉川由美さんとのご縁から、南三陸町の多くのキーパーソンと繋いでいただいたことで「山さ、ございん」プロジェクトを立ち上げることになって、自分のスキルを活かして世のため人のためになる」ということを実体験でき、「自分の命の使い方」ということを考えるようになりました。
with 鈴木卓也さん
with 小野寺邦夫さん
そして他にも印象的な大切な友ができました。
小泉の阿部正人さん。彼の故郷への素直な想いに心を動かされて、巨大防潮堤の複雑な問題を、何とか自分ごととして考えられるように、東北大学のプロジェクトメンバーのエクスカーションを実施して施策アイデアを出してみました。実現できるほどの余力がなく今日に至ってしまっていますが、毎夏一緒に小泉で波乗りをして、自分の中の火を消さないよう、何か気づきを得られるように行動しています。
with 阿部正人さん
閖上浜の大橋信彦さん。津波の前から松林で次世代に海岸林の大切さを伝えていた人生の先輩です。いま孤軍奮闘で走っているので、せめて手伝えることがないかと思って、僕がアドバイザーを務めているNPO法人湘南スタイルのメンバーで、僕のウェブサイトも制作してくれた市川靖洋、歩夫妻にお願いして、大橋さんのウェブサイト「yuriagehama.com」を制作してもらいました。これからも語り合っていきたいと思っています。
北海道の鈴木玲さん。岩手から福島までの東北沿岸の海岸植生の回復を願う熱き男です。彼の活動母体である「北の里浜 花のかけはしネットワーク(はまひるがおネット)」のロゴマークを、やはり市川夫妻にお願いして制作しました。僕が出会った中で、彼ほど「自分の命を使い切る」想いで走っている男を知りません。今は病院でメンテナス中ですが、回復すればエンジン全開で走ることでしょう。巻き込まれることを楽しみにしています。さらに突っ走れるようにパワーを注入し返してあげたいと思います。
with 大橋信彦さん、鈴木玲さん
僕のこの体験は、災害大国日本に生きる者の宿命だと思っています。
今は、南三陸町の産業振興課長の高橋一清さんを始め多くの方とも想いを共有して、町民の視点と自治体の視点を行ったり来たりしながら、本当の意味で「世のため人のためになる」「自分の命の使い方」を模索したいと思っています。
阪神淡路大震災から21年。有難いことに、僕はまだまだ成長の途上にいます。