竹本徳子さんと一緒に考えたシンポジウムのテーマでしたが、その人選、パネルディスカッションのファシリテーターまで務めさせていただき感謝です。いまの僕たちの暮らしの中ですっかり抜け落ちている視点を、仙台でそうそうたる先生方のそろい踏みで考える機会を創ることができて良かったと思います。
まず冒頭挨拶で生態適応センター長の中静東北大教授から、「自然の恵みで生活、産業、基盤を作ってきた東北。これを保全するためにグリーン復興を考えた。今は防潮堤の問題が暮らしが見えて来た住民が違和感を語り始めている。東北は流域単位で自立しており、海と山のつながりを考えやすく、被災地である海と里のためにも山から考える流域視点が重要。生態適応学を学ぶ学生は、そういった研究を社会で位置づけられるようにコミュニケーションを学ぶ必要がある。」
いよいよ講演です。
岸慶応大名誉教授からは、「流域思考は震災復興に活かせるか」というテーマでパワー全開で語っていただき、「津波高潮」「豪雨水害」の被害場所はそれぞれ違う。気候変動適応策を踏まえ、雨降る大地の入れ子構造である流域圏の細胞理解を深めるために流域思考が重要で、三浦半島の小網代や鶴見川での取組みを事例などから判り易くご説明。グリーン復興の推進は重要で、これは東北だけでなく、災害大国日本には欠かせないし、世界中の気候変動や地殻変動による災害に向けても、すべてグリーン復興を推進する必然がかならず来る事になる。最後に瀉血で亡くなった大統領ワシントンの話を例に1800年代中盤まで細胞病理学はなく体液病理学であった事実から、今の行政区分図でそれぞれが同じ水系にありながらバラバラの施策を検討するのは、体液病理学に等しく、流域思考こそが細胞病理学である。早くシフトしなければ子ども達にツケを残してしまうとのお話。
次に元国交省の河川局長でもあった竹村公太郎さんからは、洪水の水位を1cmでも10cmでも下げる事が重要で、本質的には堤防がないほうが良い。いまの若い役人に扇状地の原風景を創造する力が欲しい。海に囲まれた日本は海を犠牲にした近代化であり、近代化のシンボル蒸気機関車は20年で北海道から九州まで全国から東京に人を集める装置、そして流域を横に串刺した装置だった。そして砂浜の消失が災害を引き起こしており、構造物ではなく砂浜を創る事が必要である。そのために海岸もゾーンで守る発想であり、海から離れ、地形を信じ地形を守る事だ。さらに行政区分を越える自然の地図に従うシフトには、縦割りの隙間を埋める必要があり、その役割が大学、民間企業、NPOにあり、さらに国、都道府県、市町村を越えたガバナビリティ不在を前提とした大災害の復興事前準備が必要であるというお話。
続いて、田中京都大名誉教授からは、1300年前から魚付き林は直近と源流域という理解があり、流域、河口域の都市、つながりの価値観を啓発する。森と海のつながりの再生は水際の再生、グリーン復興のホットゾーンは水際だと考える。日本の沿岸環境漁業再生の資金石は有明海にあり、巨大地震と津波は沿岸域生態系修復の道を示唆するものであり、海から人の暮らし、水際環境は森林を見直す事からでもあるという、空間を越えた人のつながり、時間を越えた人のつながりを「海里森連環学」は説いている。しかし漁師は明日を生きることを考える目の前の問題であるため、理念に基づいた営みへの実験を漁師、研究者、学生、事業者で行う。その中に子ども達の心に木を植える環境教育も行う「森は海の恋人」運動を推進。海辺は破壊されたが、海を支える森が健全である限り海は必ず復興する。しかし問題だと思うのは、森林域に広く拡散した放射性物質であり、これは日本の森から世界の海に広がる中長期的課題でもある。海の生き物の視点がなければならず、稚魚から学んで震災の海で確信したのは海は人間のふるさとであるということ。サステナビリティの基本は、長期的視点、広域的視点、総合的視点の全てが必要である。
最後に、占部東北大教授から、被災直後は仙台からでも被災地へ向かう抵抗があったが、恐る恐る訪ねた被災地で印象に残ったのは灰色コンクリートで、ここからグリーン復興という言葉になったと思う。様々なモニタリング調査で明らかになってきたのは、干潟の生物群種の戻り方は干潟の個性のままで出現種数は3年ほどで戻りつつあるということ。津波のインパクトはあったが3年でほぼ戻りつつある。しかし防潮堤など沿岸工事で復活回復への障害、影響に懸念しており、さらなる生態系監視が必要。これまで国内で地形区分で減少したものは荒れ地(氾濫源)15%〜5%へ減少しそれは都市域に変化したが、本来は危険なバッファーゾーンで、津波によって縄文海進の海岸地形の出現がしている事でも手に取るようにわかる。これを荒れ地と言わずに干渉地として対応できる弾力が重要。仙台市海岸公園復興基本構想で干潟の経済価値1haあたり1億円の10ha、入り組んだ管理者・ステークホルダー、縦割り行政への提案、荒れ地の価値の再評価を進めたい。
というように必死になってメモを取り、パネルの内容を検討しました。
「流域思考」岸由二慶應大名誉教授、「地形と歴史」竹村公太郎さん、「海里山連環」田中充京都大名誉教授、「生態適応」占部城太郎東北大教授、この4名のパネルをどう進行するのか、、、本来当然である自然と共生する社会を維持することが、何かに価値転換しなければ、日常の暮らしの視点で気付く事ができない社会。これに気づくために、4人の先生方は、それぞれキーワードを生み出したという理解をベースにしながら進行しようと考えていました。
そもそも僕が「流域」で考えなければならないと考えるようになったのは、中部流域で栄えた尾張の国が新幹線でも通過駅になるかもというような議論があった事から、川という交通路よる縦の経済で流域単位で個性豊かな経済自立していた時代から、横の鉄道に始まるモータリゼーションによって流域を横串しにして、東京への人口と経済の流入によってステレオタイプの豊かさの時代へのシフトが、地域のにぎわいと個性を奪ったように感じたからでした。そんな気づきの原点も思い出しつつ、パネルディスカッションは、こんな感じで始めてみました。
今朝は明け方までテレビを観てしまいました。ジャンプ団体16年振りのメダルは世代を越えたチームワークでした。そのリーダーであるレジェンド葛西41歳の体力は20代、長野では怪我などから控え選手となってしまった悔しさをバネに黙々と自己研鑽して結果を出せたというのは、多くの人に影響を与える行為は普及啓発の原点であり、最たるコミュニケーションであるように感じました。
これを生態適応学に関わる人に置き換えて考えると、普遍的な自然と共生する社会を目指す日々のたゆまぬ研究・努力・好奇心の維持であり、まさに20代の鮮度が大切ではと思いますし、普遍的な事を極めるという意味ではスポーツを極めるという事にも類するようにも思います。そういう意味では、誰もが共感する事でもあるし、しかるべき研究成果などでの最適なコミュニケーションとは何かを考えたいと、明け方、このパネルを考えながら一人わくわくと思っていました。
そのためには東北の資源を活かした復興である「グリーン復興」をキーワードにした経済活動、これがあって日常生活に実感が届くのではないだろうかと考えたいし、その自然背景を考えるためには行政区分図ではダメで、自然の境界線である流域圏を俯瞰することが当然の事となる。これこそ本来的な理解のはずですが、今は「価値転換」して日常の暮らしからの「自分ごと化」をしないと流域視点で考える事ができない社会でもあります。興味の対象は学べば学ぶほど、知れば知るほど、深まっていき、世俗と離れていくのは当然なのですが、先端を走る方々の責任として、いかに市場経済、日常生活でのハラ落ちをするようにつないで行くのか、、、
例えば企業事例でお話いただいた、ワイスワイスの佐藤さんは家具メーカーとして今は異端のように見えますが本質を考えた行動であり、Think the Earthの上田さんはトヨタというグローバル企業の商品の販売促進アクアフェスはブランドイメージ構築にCSV(共有価値の創出)としてヒットさせる貢献をされていて、これも本質を考えた行動です。しかし今の社会では企業が勝つための差別化戦略になっていますが、企業の資本をこのように活かしていくのも「グリーン復興」でありヒントではないかと思います。キーワードは「本気」同志でぶつかり合うした。
そんな中で復興地の例えですが、田中先生のお話にあった気仙沼の小泉地区では、津波よって壊滅状態だった砂浜が90m復活しているのですが、その上に約15mの防潮堤が計画されています。地域住民の賛成を得たと県は言っていますが、地域住民は必ずしも賛成ではないとも聞こえてきます。報道ステーションやNHKでも報道されましたが村井知事は防御の一点張りで、住民の災害教育や学びの成果を頼る気はないような印象です。今こそ現実を直視して、冷静に考える段階にあるように思います。
そんなこんなの想いから「東北のグリーン復興を流域から考える」というタイトルを提案させていただきました。それがゆえにこの、そうそうたる講演いただいた先生方の非常にヘビーなファシリテーターをやりなさいとオーガナイズされている竹本徳子さんからご指名をいただいた次第です。
さあ、では始めてみたいと思います。今日はコンサルティング会社の方や学生が多いので、彼らへのメッセージを出来るだけいただきたいと思いますが、として以下の設問通りに進行しました。最後に会場からの質問も全て対応してほぼ予定通りの進行をした次第です。
1、皆さんそれぞれのキーワードに辿り着いたキッカケはいつどんな事から?
「流域思考」「海里山連環」「地形と歴史」「生態適応」
2、それぞれの講演内容をお聞きになって、学生に他の3名それぞれのここが大切なポイントだよとお示しください。
3、「東北のグリーン復興を流域から考える」というタイトルですが、「グリーン復興」と聞いて皆さんの立脚点からどんなアクションを考えますか?
4、会場からの質問にお応えください。
竹村さんへ
質の良いセクターを越えた連携をしてきたが、少しくたびれている 今後もよりよい連携をしたいがどうしたら良いか?
田中さんへ
肥料の多投による流域汚染、富栄養化、本来の森林や農地の役割とは?
自然由来のライフスタイルにしたいが森林に飛散した放射性物質との折り合いをどうするか?
占部さんへ
海浜植物の働きを活かした海岸林再生が大切だと思うが、巨大防潮堤、かさ上げ海岸林で自然生態系を無視した復興事業が進むがどう思うか?
岸さんへ
行政が広報予算を削減し、先進的に取り組む市民活動の普及啓発が自走で行わなければならなくなっている。何か知恵をいただけないか?
全員に
生態系サービスによる経済効果も計算できるようになりつつあるのに、非居住地に巨大防潮堤、人の仕事を生むのは大切だが、、、日本はなぜイギリスやベルギーを参考にしないのか?
肝心のパネルのお答えは壇上でパソコンを打ち続けるわけにいかず、頭の中を、知恵ある数々の言葉が流れては消えて行ってしまいました。しかし会場の皆さんの心にひとつでも多くのヒントや刺激を残す事に専念し、テンポと歯切れの良い流れを堅持する事だけを心がけ、僕の持論である、企業を動かす事は社員のモチベーションを維持し上げる事だが、世の中で良い事をしているという評価が必ずしも社内の評価につながらない、これもまた今の社会の現実をシフトする必要があるので、企業の例え小さな良い事でも市民が大いに褒める事が重要だという考えも挟む事が出来ました。もちろん広告会社の責任も大きいという話もです。
今日の経験は僕にとって、ひとつのステップだったように思えました。懇親会で中静先生に壇上から、充実した進行だったとねぎらいの言葉をいただけて満足です。講演いただいた先生方、拍手をくださった参加者の皆様、東北大の皆様、ありがとうございました!
中静透東北大生態適応センター長から冒頭の挨拶
会場ですが僕には感動的な図です。
最前列に右から岸由二慶応大名誉教授、田中充京都大名誉教授、竹村公太郎さん。
(瀉血で亡くなった大統領、ワシントン。よろしく)。