芦屋市政施行80周年記念
芦屋文化ゾーンシンポジウム
「芦屋の魅力のルーツを探る!!
〜歴史・文化・SDGsの視点から紐解く〜」
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考古学:竹村忠洋(芦屋市教育委員会)
阪神間モダニズム:三宅正弘(武庫川女子大准教授)
具体美術:川原百合恵(芦屋市立美術博物館)
SDGs&モデレート:川廷昌弘(博報堂DY)
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主催:芦屋市教育委員会
会場:芦屋市立美術博物館
このイベントは、芦屋市教育委員会の皆さんと市政80周年事業にSDGsを取り入れて芦屋の未来を語る企画をやりましょう!ということから動き始めたものです。
僕の素朴な問いは、
「芦屋」っていつからブランドになったんだろう?
そもそも「芦屋ブランド」って何だろう?
未来に継承するために何をするべきなんだろう?
これに対して、
1、芦屋の地形から芦屋の生活文化の成り立ちを知り
2、近代化とともに築き上げられた阪神間モダニズムを知り
3、世界戦略を持つ芸術表現「GUTAI」の誕生背景を知り
4、芦屋の未来をSDGsの視点で地に足のついた発想をしてみる
そんな内容を話せる方に登壇をお願いしましょうということで、今日のセッティングとなりました。
芦屋という地名は「芦」「葦」の生える湿地が広がり、アシを葺いた家が点在していた風景に由来する。7世紀以前にはすでに記録があり、740年に摂津国菟原郡葦屋郷との記述があり、芦屋廃寺など、菟原郡の政治的中心地であり、平安京の都人が西国街道で向かうと、最初に海に打ち出でる場所が芦屋であり、平安時代の伊勢物語にも書かれた風光明媚な景勝地で知られていた。
阪神間モダニズムは、私鉄の開発と共に国際文化住宅都市の芦屋を中心に発展し、フランク・ロイド・ライトの山邑邸を象徴とし、有名建築家の手による公共施設や、個人の邸宅に洋風建築が多数取り入れられ、自生する松を象徴的に残しながらインフラは開発され景観を成してきた。またモータリゼーションの象徴の国道2号線に架かる橋はモダンなデザイン。
そんな芦屋では、二科展九室会を発足させ、1948年芦屋市美術協会の会長に就任し、現代美術懇親会などで活躍していた吉原治良の「人の真似をするな」という言葉の元に若き前衛作家が集まり、1954年に具体美術協会が設立。松林豊かな芦屋公園で立体物からパフォーマンスまで野外具体美術展を開催。洋画家小出楢重の元に多くの画家が集まり、伊藤継郎も絵画教室などを開いて次世代を育てた。そして、芦屋市展は何人でも応募できる開放された展覧会であった。また、洋行帰りの中山岩太が芦屋でアトリエを建て、ハナヤ勘兵衛などと、「總ての作家に敬意を拂ふ 然し我々は新しき美の創作 新しき美の發見を目的とす」と宣言し、芦屋カメラクラブを設立。当時世界で流行していたドイツ新興写真を凌駕する斬新な写真表現を展開していた。
登壇者の話を僕なりにまとめてみると、芦屋は、平安時代の都人に風光明媚な景勝地として知られ、すでにブランド化していた。しかし、近世までは空白時代が続き、近代化の住宅都市作りで、このブランドイメージを活用した開発が行われた。そして大阪商人たちが競って洋風建築を建て、モダンな景観とライフスタイルが定着し、先進的な芸術も開花し世界にも発信しながら、誰もを受け入れ新たな才能を発掘していった。4,000人に満たない市民がこの近代化で一気に20,000人となった。多くの芦屋生まれの市民はこの時代に移住した末裔たちで現在、3、4、5世代目ぐらいということになる。こういったことがわかってきました。僕もひいじいちゃんが芦屋に家を建てて移住したので4代目。
僕からは「芦屋市民憲章」にSDGsの17ゴールを当てはめ、SDGsが国連で決まったどこか遠い国の問題を解決するためのものではなく、自分たちが住む町を次世代に引き継いでいくための地域の目標であり、その集積が国連で議論されているSDGsであると説明をしました。
もう少し説明すると、「芦屋市民憲章」は、1951年(昭和26年)に住民投票で示した市民の総意が生み出した特別法「芦屋国際文化住宅都市建設法」によって「国際文化住宅都市」に指定されたことにより議論が始まり、1964年(昭和39年)に宣言されたものです。
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芦屋市民憲章
わたくしたち芦屋市民は、文化の高い教養豊かなまちをきずきましょう。
わたくしたち芦屋市民は、自然の風物を愛し、まちを緑と花でつつみましょう。
わたくしたち芦屋市民は、青少年の夢と希望をすこやかに育てましょう。
わたくしたち芦屋市民は、健康で明るく幸福なまちをつくりましょう。
わたくしたち芦屋市民は、災害や公害のない清潔で安全なまちにしましょう。
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昭和39年の頃は、環境問題とは、高度経済成長による公害問題の時代であり、気候変動はまだ議論されていません。アンコンシャス・バイアス(無意識の偏った物事の見方)やジェンダー平等なんて言葉もありません。しかし、この市民憲章は平易で奥行きのある文章になっており、その時代その時代の意訳をすることで未来にわたり、芦屋の市民の心がけとして語り継ぐことのできる先人の知恵であると思います。つまり、現在であれば、これをSDGsで説明することで、世界共通言語にすることが可能ということです。また逆を言えば、SDGsはそのような普遍性があることを理解することも大事だと思います。
ちなみに、全国で唯一の住宅に関する特別法「芦屋国際文化住宅都市建設法」とは、芦屋にある資源を守る開発を目的とし、第一条にはこのように書かれています。
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第一条 この法律は、芦屋市が国際文化の立場から見て恵まれた環境にあり、且つ、住宅都市としてすぐれた立地条件を有していることにかんがみて、同市を国際文化住宅都市として外国人の居住にも適合するように建設し、外客の誘致、ことにその定住を図り、わが国の文化観光資源の利用開発に資し、もつて国際文化の向上と経済復興に寄与することを目的とする。
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このように芦屋の先人たちは、豊かな芦屋の持つ資源を守りながら、新しい物事に挑戦し続けて、現在の芦屋ブランドが作り上げられてきたと言えます。
さて、このフォーラムを企画した者として、最後に取りまとめてみると、シンプルにこういうことになります。
「未来の子ども達に、これまで先人が築いてくれた芦屋ブランドを守り継承するために、私たちも新しいことに挑戦をし続けることが大事であるということです。特に、子ども達の自由な発想に学び、その可能性を開花させるための住環境づくりであると思います。」
その点で、9月に策定されたばかりの芦屋市総合計画に可能性を感じています。「ASHIYA SMAILE BASE」と題され、その新鮮味が、現市長のいとうまいさんのイメージにピッタリだと思っています。この中で、3つのプロジェクトが記述されていますが、その中の一つ、「ともに進めるエリアマネジメント」が秀逸だと思っています。こう記述されています。「官民が連携して取り組んでいる芦屋市中心部のブランディングエリアにおいて、JR芦屋駅南地区再開発事業との連動、エリア内の歴史的建造物の活用、起業や市民活動の支援により、賑わいや自己実現の場をデザインすることに併せて、市内回遊性を高め、市全体への波及効果を目指します。また、打出教育文化センターなど公共施設の最適配置に伴う新たなエリアマネジメントを推進します」というものです。僕はこのプロジェクトは総合計画の目玉だと思いますし、芦屋らしい未来づくりになることを期待しています。
実家もこのエリアにあり、母も町内会のみなさんと取り組んでいました。僕も芦屋市の先人が築いた財産を食いつぶすような道楽息子になってはならないということですね。今年の早々に市制施行80周年記念WEB版冊子「ROAD TO 2040 ASHIYA」で故郷への思いを取材していただいています。ここでも芦屋への思いを語っています。
今日の会場には、中学校の同級生、会社の先輩、勝手に恩師と思っている芦屋市立美術博物館の元学芸課長だった故河ア晃一さんの奥様と娘さんもお越しになり初めてご挨拶できました。そして母が町内会の方々と駆けつけてくれました。終わってから、母からは、「あんなに上手に話をするようになったのね、市民憲章って難しいことが書いてあるなあと思ってたけど、今日の話でよくわかったわ。SDGsもそういうふうに考えたらよくわかるわ。」「声がよく通るから、耳の遠い町内会の人も、話の中身がようわかったって」と言ってくれました。きっと会場にお越しくださったみなさんもこんな感じで持ち帰ってもらえていたら嬉しいです。会場は満席、年齢層も様々でした。
そうそう、会場のみなさんに「SDGsはご存知ですか?」と聞いたら、ほとんどの方から手が挙がりました。そして「市民憲章はご存知ですか?」と聞いたら誰も手が挙がりませんでした。なるほど、、、、次なる展開を芦屋市教育委員会の皆さんと相談していきます。
さて、最後に、今日のメインビジュアルにこの写真を使っていただきました。昭和10年代の芦屋の絵葉書です。それを周年企画の一環でカラーで再現されたのですが、会場のスクリーンいっぱいに投影してみると、葉っぱの一枚一枚や国道電車の質感などがとってもリアルで、昨日撮った写真のようにも見えました。この写真について、芦屋市教育委員会の竹村さんのコメントです。「昭和10年代に比定しておりますが、その根拠は写真に写る国道電車が阪神71形で、昭和12年(1937)に新造された車両であることです。また、この写真は業平橋が阪神大水害(昭和13年7月5日)の被害を受ける前のものであると思いますが、そうすると昭和12年〜昭和13年7月5日までに撮影された写真ということになります。」
想いが熱く、長文となってしまいましたが、最後までお読みいただきありがとうございます。ご意見、ご感想をお寄せいただけると嬉しいです。