2020年12月30日

この時代にバライタ印画紙が性能向上で感激

来年2月に開催する「松韻を聴く」の個展に向けて、久しぶりに11x14インチのバライタ紙でプリントしている。

印画紙は大阪写真専門学校で使い始めたILFORDをもう30年ほど愛用している。しかし2013年頃に国内での取り扱いが変わって値段が倍増し、暗室ワークもこれまでかと思っていたら、海外からの取り寄せだと半額近い値段で手に入ると知り息を吹き返した。

NYにリアル店舗があるB&Hは、ネットでも日本円で表示されているので購入しやすいため、多くの写真家が利用していると聞き活用する。

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B&Hのリアル店舗(Googleストリートビューより)

今回の作業では、その頃に国内で購入していたバライタ紙がまだ手元にあったのだが、10枚ずつの小ロットで作業に没頭するには枚数が小刻みのため、無意識にB&Hで購入した50枚入りのBOXを使った。するとこれまで経験で培ったデータよりも光を強く感じ違和感を持ったけど、露出を絞ったためなのかこれまでになく階調が豊かに再現でき、期待以上のプリントワークができたので、気分も良く調子に乗って作業を進めることができた。

3日目の今日、50枚を使い切ってしまい、ストックしていた国内で購入していた印画紙でプリントをしてみたら、光を感じにくくデータがまた狂ったと愕然とし一瞬落ち込みかけたが、何でだろうと両方のパッケージを見比べれみたら、何と!同じバライタ光沢厚手だが、商品名が写真の通り違うのである。これに今頃気がついた。B&Hで購入したのはCLASSICとなっている。

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同じタイプの印画紙だが表記が違った

慌ててネットで調べてみたら、このようなデータを掲載している写真家の斎藤純彦さんのサイトを見つけた。

性能向上に関してメーカーの記述を抜粋転記。
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イルフォード・マルチグレードFB CLASSIC ファイバー多階調印画紙は、イルフォード・マルチグレード IV FB ファイバー多階調印画紙の後継製品として、以下のように性能が向上しています。

・最大濃度が上がった
・水洗時間が50%短縮
・露出時間が短くなった
・各グレード間の階調差がより均一
・画像がシャープになった
・現像時に画像がより速く出現
・階調特性が改善された
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腑に落ちる、腹に落ちる、合点がいく、自分が感じた通りのことが書かれているので大いに安堵した。さらに詳しく斎藤さん自身の見解が書かれている。志向する表現が違うので、その見解がさらにヒントになった。

そして何より感激したのは、デジタルカメラ隆盛のこの時代に、バライタ印画紙の性能をILFORDと言うメーカーは向上させてくれているということだ!もう行く末が見えないと思いながら、12年ぶりに、自分で暗室にこもりプリントをするモノクロの個展を開催するにあたり、驚きと感激、そしてモチベーションが500%ぐらいアップなのである。

そうなると、暗室機器の寿命が心配になってくる。1991年に大阪写真専門学校(現ビジュアルアーツ大阪)の夜間部に入学した際に購入した機器が現在も元気に動いているのである。

引き伸ばし機はLUCKY 90M-D、タイマーはLUCKY Timer3、そしてセイフティライト。イーゼルはLPLユニバーサルイーゼルマスク5132。

印画紙が進化している現実を知り、どうか生涯の友であって欲しいと切に願う今日なのである。

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今日の暗室

2月の個展では、このように暗室ワークに新たな生きがいを感じ、様々な場所で出会った光景に再び感情移入しながら、印画紙に焼き付けた成果を展示したいと思いますので、是非とも来てくださいね!

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川廷昌弘写真展
「松韻を聴く」
場所:蒼穹舎ギャラリー
日時:2021年2月22日ー3月7日 13:00-19:00
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DMの入稿原稿


posted by 川廷昌弘 at 23:33| Comment(0) | エコロジー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年12月24日

写真集「松韻を聴く」を出版します

僕にとって4冊目の写真集の制作が始まっている。新宿御苑にある出版社の蒼穹舎で印刷会社から届いた初稿を見た。とても力強く手応えを感じるものになっていた。明らかにこれまでの写真集とは違うと思う。ワクワクする。

編集者の大田通貴さんのドライなセレクトで松の木にしっかり集中できる流れとなり、デザイナーの加藤勝也さんの手によって写真たちが新たな呼吸を始めていた。さらにとてもクオリティの高い印刷技術によって、ここまで僕のプリントが表現していたのかと思うほどの世界が再現されている。

自分で言うのもおかしいが、これまで自分が作ってきた世界観がとてもしっかりとした思いに支えられていることを実感する一方で、このような手応えを得られる機会をこれまでにも積んできていたら、もっと自信を持って撮影の時にしっかりと松と向き合って作品の枚数は増えたであろうと思う。こうして成長していくのだと思う。

写真集の構成は、これまでと違い自分の主観をできる限り捨てて大田さんに100%編集を委ねることができるようになった。人間として成長したのかな。それによって写真たちがとても互いに響き合い良い感じで収まっているのだ。テキストも大田さんの指示に従い、伝えたいと思っていた感傷的な部分は削除した。この写真集が陳腐にならないように。一人歩きできるように。

タイトルもシンプルにした。「松韻を聴く」だ。英語タイトルは翻訳者のヒントン・ミユキさんによって「The Voice of the Waves Through the Pines」となった。

発売は2021年2月21日の予定。出版に合わせて10年ぶりに写真展を開催することにした。蒼穹舎ギャラリーで2月22日ー3月7日。東日本大震災から10年の節目となる。

蒼穹舎ギャラリーへのアクセス

この「松韻を聴く」に取り掛かった背景について書いてみようと思う。

東日本大震災の直後から、東北大学に集まってグリーン復興プロジェクトと銘打って、岩手と宮城の海岸線に住む様々な人と交流し支援のあり方を考え行動し、各地の現状を把握していった。そんな中で、閖上「ゆりりん愛護会」の大橋信彦さん小泉海岸の阿部正人さんをはじめ、陸前高田の「高田松原を守る会」など、故郷の海岸線の風景を守りたいという強い思いを持った人に出会った。そして北海道から東北の海岸線に足を運び、地域の自然植生を活かした景観を再生する「はまひるがおネット」の鈴木玲さんとも出会った。

日本人の心の風景ともいえる「白砂青松」の風景。暮らしを守るために人の手で作られた風景。これが津波で徹底的に破壊された。閖上の大橋さんは震災の前に子供たちを集めて松林で環境教育を始めていた。この美しい風景を次世代に引き継ぐためだった。しかし壊滅した。大橋さんの自宅も流され、大橋さんもなんとか生き延びた。閖上の松林を取り戻したい。その一心で動き始めていた頃に出会った。小泉の阿部さん。美しい白砂青松の風景は跡形もなく、そこに幅90m高さ14.7mの防潮堤の建設が決まりゆく中で出会った。いずれも、何ができるのか足を運んで語り合ったが、外部の人間の無力感を抱くことになった。

地域の力になれることを模索している頃、ヒントが欲しくて写真家の視点で見つめてみることにトライしようと、2013年のGWに松川浦から閖上の松林のあった風景を車中泊で撮影した。無人の荒涼とした風景に佇む立ち枯れた松や生き残った松。圧倒的な存在感。被写体としての魅力。この手応えを形にすることができないだろうかと思ったが、この地域に何のゆかりもない僕が、これを撮って良いのだろうかとためらってそのままになってしまった。

阪神淡路大震災の10年後に出版した写真集「一年後の桜」は、被災者としての言葉にならない心情を撮り続けたものだった。部外者の自分にできる写真を通した表現とは何かを悩んだ。

2015年、震災から4年が経ち、復興の槌音が聞こえ海岸線の風景にも変化が出始めた。この変化する風景の中で、あの松たちがどんな表情を見せてくれるのか、やはり撮りたいと思い、それから毎年、まとまった時間がとれる時に、北は青森の下北半島から南は北茨城まで、車中泊で海岸線を巡った。様々な立地の中で、立ち枯れた松、生き残った松が、雄弁に語りかけてくれた。しかし多くの立地は、人間の暮らしを感じる場所ではなくなっていた。暮らしを守る風景とはどうあるべきなのか。それを問いかける作品になればと思う。

撮影機材は、亡き親父から譲り受けた1971年製造のハッセルブラッド500Cにプラナー80mm標準レンズ1本で、フジフイルムのアクロス100というモノクロフィルムを使った。

阪神淡路大震災は被災者として撮影して10年後に「一年後の桜」を出版した。東日本大震災は外部者として撮影して10年後にこの「松韻を聴く」を出版する。地震大国に生まれ生きる人間として風景をどう表現するのかを追求することになってきたように感じる。是非とも手にとってご覧ください。個展にもお運びいただき購入してもらえたら、さらに嬉しいです。

写真集「一年後の桜」はこちらか購入できます。
続編の「芦屋桜」もあります。

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表紙の見本と本編の初稿です。



posted by 川廷昌弘 at 12:00| Comment(0) | エコロジー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする